作品の紹介と、読んだきっかけ
著者は英国と日本の二つのルーツを持つ英国の作家、カズオ・イシグロ。2017年にノーベル文学賞を受賞し日本でも話題となりました。前年にTBSでドラマ化されていた影響もあってか、本書「わたしを離さないで」も急遽、増刷されました。
私もこのTBSのドラマに興味を持っていたものの、連続ドラマを見続けるのを億劫に思ってしまうタイプで、このドラマも見ずじまいでした。そこで、ノーベル文学賞を受賞したこのタイミングで原作を読んでみようと、この小説を手に取ったのです。
この本は、いわゆる「ネタバレ注意」の作品ですが、ネタバレしても、その魅力が損なわれることはありません。
ですが、この感想文ではネタバレを極力避けながら、紹介していきたいと思います。なぜなら、リアルタイム物語を体験することが重要な作品だからです。
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ストーリー、および感想
舞台は1990年代後半の英国。といっても現実の世界ではなくフィクションの世界の英国です。
キャシーは「提供者」と呼ばれる人たちの「介護人」をする31歳の女性です。彼女が介護人であることは、彼女の生い立ちに関係しています。
物語はキャシーの独白という形式で、過去を振り返りながら進められます。彼女の友人や彼女自身の人生ついて淡々と語られますが、その語り口は穏やかで、秋風のように寂しくも心地よい、何とも言えない情感がにじみ出ています。
キャシーとその友人たちは「へールシャム」という施設で育ちます。そこで同年代の子供たちと一緒に寮で暮らし学校生活を送っています。
物語の中心人物はキャシーの他に、同級生のトミーとルースです。トミーは子供時代は癇癪持ちのちょっとした問題児。ルースは相手より上の立場に立ちたがる目立ちたがり屋で、少し意地悪な女の子。
彼らの学校生活は私たちの経験するものと、”ある秘密”を除いては、何ら変わりはありません。
癇癪持ちのトミーは同級生のからかいの的、ルースは目立ちたがり屋で駆け引き上手な女の子、「あ~、こんな感じの子いたよね〜」と、多くの人が自分の子供時代を思い出すのではないかと思います。
やがて彼らも成長し性的に成熟していきます。それも私たちと何ら変わりありません。ですが、”ある秘密”がもたらす過酷な運命のために、私たちと決定的に違う人生を歩むのです。
キャシーとトミー、ルース、彼らは過酷な運命を受け入れながらも、すこしの希望を見い出そうとします。でも、その希望が本当の生きる糧ではないと、私は思います。その一縷の望みを“ともに抱ける仲間”がいることが本当の希望なのだと思います。
仲間といっても、美しいだけのキレイな話ではありません。子供時代から思春期にかけての人間関係の複雑さや微妙さは誰でも経験することです。この物語は人間関係の機微が丁寧に描写されていることも大きな魅力です。
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まとめ
この本は私の今まで読んできた小説のベスト3に入るものです。「わたしを離さないで」を既に読んだ方も、未読の方も、この私の感想を頭の片隅にでも置いていただいて、この本から何か受け取ってもらえたら、嬉しく思います。
※ちなみに、ベスト3の他の2冊は「アルジャーノンに花束を」と「ライ麦畑でつかまえて」です。
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